永平寺中学校    「礼の心の教育」

1,礼の心のスタート
  永平寺中学校では昭和62年(1987)鶴田佳三校長先生が教育目標を「仁」として努力事項として、あいさつ、けじめ、清掃、自立起床を据えた。校門での礼、黙想、あいさつ、無言清掃が開始された。当時の学校は荒れていて、生徒指導困難校であった。その立て直しを図るため、昭和61年(1986)「格技指導推進校」(文部省・福井県教育委員会指定)の研究を通して、礼の心を追求してきた。それから30年、永平寺中学校は「礼の心」の伝統を守りながら落ち着いた学校生活を送り続けている。先輩から後輩に語りつないできた伝統となっている。
 落ち着いた学校生活のため、学習に臨む姿勢が良く、落ち着いた雰囲気で授業が出来るので学習成果も高い。

 

2,伝統的な生徒の活動
 「校門での礼」
    礼の心は、伝統として学校生活の要所に生かされてきた。朝夕の登下校時、校門に立ち校舎に一礼する子どもたちの姿は、自然な作法として定着している。学び舎に集う心構えとして、謙虚で素直な心、感謝の心を見つめ直している。雨の日も風の日も変わらぬ光景として、歴代の在校生が受け継いでいる。      

 

「授業前の黙想」
  授業や集会では、2~3分前には席に着く。開始を告げるチャイムが鳴ると同時に、にぎやかにお喋りしていた子どもたちは、背筋を伸ばして黙想姿勢をとる。学校中が静まりかえる。時間の流れの中に「動と静」を切り替える瞬間であり、授業に集中させる間の取り方として、チャイムと同時に体内スイッチが入る。メリハリの一つのつけ方と言えよう。
  
「無言での清掃」
    午後3時20分、掃除の始まりである。掃除の時間にも本校には教育がある。私語一つしないで拭き掃除にひたむきに取り組む子どもたちの姿がある。心を磨く時間なのである。掃除をとおして「創自の時間」としての教育活動が成立する光景が繰り広げられる。暑い夏も寒い冬も、掃除の時間になると、先ずは黙想正座で集中し、毎日、15分間の拭き掃除に専念する。
  15分の掃除の時間には黙想を2回取り入れ、自分を見つめたり、心構えや雰囲気を作る場を設定している。「やりきる」「きれいにできた」という充実感を大切にしている。
  また、2分間の「+αの掃除(自ら汚れているところに気づき、きれいにする)」を設定し、受け身の掃除(ただ与えられた場所を、黙々とするだけ)ではなく、主体的に自ら気づき行う掃除をめざしている。場所の移動などはすべて駆け足で行い、終わった頃には汗だくだくになる。反省会では、頑張っていた生徒や、良かったことを出し合い、みんなで拍手で気持ちよく終わるようにしている。
  最初の3日で「基礎の形」を作り、3週間で「形をマスター」し、3ヶ月で「形が当たり前」になり、3年間で「感謝の気持ちでの清掃」が身に付き、卒業の時には、良い思い出としていつまでも心に残るような貴重な体験になってほしいと願っている。生涯の宝になるものと信じている。

 

 3、むすびに              
 「礼の心」は昭和62年度からスタートした。そして多くの学校から注目されるようになった。なぜ、30数年もの長きにわたって引き継がれ、伝統となって残ってきたのだろうか。
  歴代の校長先生をはじめ諸先生方の根気強い指導と生徒諸君の3年間での心の成長によって支えられてきたのかもしれない。本校の生徒は、学年が進むにつれて落ち着いてきており、3年生の掃除は本当に感動させてくれる。すてきな先輩の姿が、1・2年生へのあこがれになり、継続への大きな要因になっているのであろう。
 さらに、私自身も、この落ち着いた環境の中で生活させてもらっているが、始業時や黙想時には、一瞬人気がなくなったような錯覚すら覚える。あの静寂さには、本当に心が洗われ、本当に心地よさを感じる。生徒たちもまた、この心地よさに浸っており、同時にこの心地よさを求めるようになっているのではないかと感じている。
  また、生徒自身にとっては、今のような形で行われている校門での礼、黙想、無言清掃など、どれをとっても「特別」なものではなく、「あたりまえの活動」として行っている。誰が見ていようが、見ていまいが、毎日「あたりまえの事を、コツコツと、ひたむきに、日常の生活の一部として行っている」だけである。    
 生徒たちにとっても、我々教職員にとっても、地域にとってもすばらしい評価をいただいたことは、大きな財産であり、自信にもなった。今後も、なお一層永中の伝統として、「誇り」と「自信」を胸に、さらに進化させながら継続していけたらと思っている。
   
 最後に、今日の社会の急激な変化による失業者の増加や家庭経済の困窮化、離婚、それに伴う家庭の崩壊、地域教育力の低下など生徒を取り巻く環境には大きな課題が生じており、本校生徒も確実に大きなうねりの中に巻き込まれようとしている。
 我々教職員一同、こういう時だからこそ、『永平寺中学校の「心の教育」が将来の子供たちの生き方に役立ってくれるもの』と信じ、日々取り組んでいる。
 そして、地域風土のもつ教育力に支えられながら、「ふるさと永平寺を誇りに思い、愛し、将来の永平寺町を支えてくれるような人づくり」をめざしていきたいと思っている。